• 外なる者 テュパン港
  • 外なる者 追跡者
  • 外なる者 積み荷調査
  • 外なる者 奇妙な瓶詰1
  • 外なる者 奇妙な瓶詰2
  • 外なる者 待ち伏せ
  • 外なる者 教団の影
  • 外なる者 支部
  • 外なる者 指令/宿敵
  • 外なる者 恐怖
  • 外なる者 虚像
  • 外なる者 挟撃
  • 外なる者 黒の森の少女
  • 外なる者 黒の森のアリス
  • 外なる者 自然の理
  • 外なる者 寝所

外なる者   テュパン港

──テュパン港──


 街に着いた時、辺りはもうすっかり闇に包まれていた。

 何気なく港の方へ歩いていくと、こんな時間に船から荷を下ろしている連中がいるのを見つけた。その光景自体は特に珍しいものではなかった。

 しかし、その周辺に漂っている空気は生臭くよどんでいた。気分が悪くなってきたのでその場を立ち去ろうとしたとき、一際大きな木箱が荷台から落ち、鈍い音と共に壊れて海に沈んでいった。

 

 途切れ途切れの月明かりが水面を照らす。

 

 何か肉の塊のようなものが水に浮いている。

 

 肉塊の表面が奇妙に波打ち、不気味な音をたてた。いや、鳴いた?

「まだゾのととときデはななない。いいいましららレるわけには、いいいかイか……い!イ!」

 不意に背後から、極めて聞き取りにくい耳障りなゴボゴボという声がする。同時に海から海蛇が何匹も現れ周囲を取り囲んだ!



battle
マーシュ一族


 自らに危険が及ぶと、その魚のような顔をした不快な人間(と呼んで良いのか?)は蛇をけしかけて、闇の中へと逃げていった。

「……しるシ! シるし! もううう、のガれることははできないイイ!」

 他の人影も、奇妙な肉塊もいつのまにか見あたらなくなっていた。辺りは生臭い匂いに包まれていた。確かにこの匂いをつけたままでは目立つのは間違いなさそうだが……

外なる者   追跡者

──追跡者──


 海都グラジオラスへと続くただ一本の道。干潮時にしか大陸と陸続きにならない海上都市へ徒歩で行くにはここを通るしかない。もちろん船で行くこともできるが、やはりここを歩いていくのが一番安上がりだ。

 そんなわけでこの道を使う者は多いのだが、今日に限っては何故か行き交う人の姿が全く見当たらない。


 グラジオラスに近づくにつれて、空気が重く、周囲の風景が色褪せてきているような妙な錯覚にとらわれる。

 そんな時、前から冒険者と思われるパーティーが近づいてきた。

 その中の一人が視線……いや、明らかに殺気をこちらに向けている。


「……お前か。見てはいけないものを見た運の悪い愚か者というのは」

 その男は剣を抜くと切っ先を【NAME】に向けた。


「運がいいのも冒険者の才能の一つだ。そして、運が悪いのも冒険者の才能の一つだ」

 フードを深々とかぶった男の手下達が、周りを取り囲む。

「但し、運が悪いと長生きはできないがな!」

 男達は一斉に襲いかかってきた!



battle
追跡者


「なるほど、運の悪さを己の技で補ってきたというわけか」

 男はこちらの攻撃で傷を受けた左目を庇いつつ、じりじりと間合いを広げていく。

「お前達の力を見くびった私のミスだな。この傷はその罰として覚えておこう」

 急に辺りの風景が色を取り戻したような気がする。

 その一瞬の隙を見て、男は海へ飛びこみ、海中へと逃げていった。

「次に会う時を楽しみにしているよ」

 次に海上に現れたとき、男は既にかなり遠くへと逃れていた。


 周囲には旅人の姿がちらほら見られるようになっていたが、皆一様にこちらをジロジロと見ながら、鼻に手をあてて通りすぎていく。その様子を見てはじめて、自分たちの周りに生臭い匂いが立ち込めているのに気づいた。

外なる者   積み荷調査

──テュパン港──


 指定された建物の中で夜が来るのを待つ。

 依頼内容は、真夜中に港で船から何かの積み下ろしをしている連中がいるのだが、その荷物が凄い匂いで近所迷惑だから中身を確認して欲しいというものだった。


 間違いなくこの間の連中のことだ。これ以上関わらない方がいいのではないかと思いつつも、あの箱の中身が気になり、つい依頼を受けてしまっていた。


 夜半過ぎ、ついウトウトしてしまっていたのだが、あまりの生臭さに目を覚ました。

 窓からそっと海の方を覗くと、例の連中が積荷を船から馬車へと積み替えている。

 剣や槍が入っているのではないかと思われる細長い箱がいくつかと、何かの瓶詰めがいくつか、そして、例の大きな箱が一つ。

 戦闘になるのは明らかだったので、武器を構えて勢い良く出ていく。

 奴等は驚いて何か喚き散らしている。中の一人が大きな箱の蓋を開けた。もう一人が笛のようなものを吹く。

 中から出てきたのは、あの肉の塊だった。不定形だが意志をもって動いていた。そのどろどろとした外見に似合わず、そいつの動きは機敏で、明らかに攻撃的だった。



battle
マーシュ一族


 戦闘が終わったとき、馬車も船の姿も見当たらなかった。

 箱の残骸、肉片、割れた瓶、そんなものがあちこちに散らばっている。

 そんな中に一つだけ割れずに残っている瓶を見つけた。

 瓶の中身は先程の不定形のモンスターの一部のように見える。これについて調べれば何かわかるかもしれない。

 調べるとすればどこだろう?

 ルアムザの学者連中に調べてもらうのがいいかもしれない。あるいはシランの闇商人達なら出所を知っているかもしれない。

 とりあえずそれだけ拾って、依頼主に報告に行くことにした。

外なる者   奇妙な瓶詰1

──奇妙な瓶詰──


 シランはテュパンの西の端に位置し、国境にも海にも接しているせいもあり、いまや盗賊達の溜まり場となっている治安の悪い街だ。

 しかし、普段手に入らないようなものを探したり、裏情報を聞き出すのには重宝するところだ。


 表通りから薄暗い裏通りへと入っていき、適当に目星をつけて露天商や酒場の主人に、不定形のモンスターの一部と思われる物体がはいった瓶詰を見せていく。


 返ってくる答は一様に見たことないというものだった。

 しかし、一つだけ有用な情報が得られた。

 これと同じようなものを乗せた馬車が国境の方へ向かっていくのを見たことがあるというのだ。その方角は明らかに普通のルートではなく、密輸を行っているのは間違いないだろうという話だった。

 カルエンスへ向かったのならば、ラズハイトを通っている可能性が高い。ラズハイトで新たな情報が得られるかもしれない。

外なる者   奇妙な瓶詰2

──奇妙な瓶詰──


 ここルアムザはグローエス五王朝の中心地であり、グローエスの首都である。街道は街の中心へと続く道へ連なり、そのまま真っ直ぐ巨大な宮殿へと続いている。

 街の外郭部には有名な魔術学院『昂壁の翼』があり、その周囲には王立図書館や薬品店、実験機材、書店などが集まっている。


 とりあえず、魔術師や学者が集まっていそうなサロンに入り、なにやら難しい話で盛りあがっているところに割り込んでは、不定形のモンスターの一部と思われる物体がはいった瓶詰を見せていく。


 中には興味を示し、成分を調べてみたいのでしばらく貸してくれと言ってくる者もいたが、それがなんなのか即答できる者はいなかった。

 しかし、どうやらこの瓶の中身は生きているのではないかということ、瓶自体に中身の成長を停止させる呪詛の類がかけられている可能性があること、明らかに普通の生物ではなく『現出』した生物とも系統が異なるのではないかということが分かった。

 手がかりを得ることはできたが、やはり奴等の正体や目的は、依然、謎に包まれたままだった。

外なる者   待ち伏せ

──待ち伏せ──


 シランで得た情報を元に国境を越えラズハイトへと向かう。

 カルエンスとテュパンの間の緊張はこれまでにないほど高まっている。主な原因はカルエンスと隣国ノティルバンとのつながりに関する噂が元になっているようだ。

 正規のルートを使わずに国境を越えて持ちこまれた武器や謎の品物。西に向かったということは、カルエンス領内のどこかが目的地である可能性が高い。──でなければ、ノティルバンだ。


「待っていたぞ。お前達がコソコソ嗅ぎ回っているのは分かっていた」

 グラジオラスで襲ってきたあの男だ。しかも、例の肉塊を連れている。

「もちろん、お前達に余計な情報を漏らしたヤツは始末させてもらったよ。お前達にはこの前の借りもあるからな。このショゴスに生きたまま溶かされ、至高の苦痛を味わうがいい!」



battle
追跡者


「クッ……この程度の成長では駄目か……覚えておけ、ショゴスの真の姿はこんなものではない。このレイドがいる限り、お前達に我々の邪魔はさせない!」

 ありきたりな捨て台詞を吐くとレイドと名乗った男は早々に逃げていった。

 

 結局、奴等の手がかりは得られなかったが、こちらを監視していることがわかった。つまり、いろいろ嗅ぎ回っていれば、向こうから出向いてきてくれるということだ。

外なる者   教団の影

──教団の影──


 ガレクシンからテヌテへと続く山道。険しい山道の先にあるのは武闘術を使う者達の街だ。必然的に道で人に会うことも少ない。道も歩きやすいとはお世辞にも言えない。


 そんな山道を歩いていると、【NAME】は自分の荷物がわずかに動いているのを感じた。

 立ち止まって中を調べてみる。

 原因は謎の生物が封じてある奇妙な瓶詰だった。何かに反応しているかのように瓶の中でその表面が振動し、波打っている。


 この近くに何かがあるのは間違いないだろう。このまま付近を探索してみるか?






 街道からそれて森の中へと入って行く。瓶の中の生き物の振動がやや強くなる。何かに近づくに連れて振動が大きくなっているようだ。森の奥へと進んでいく。

 生い茂った木々が日の光を遮り、森の中は昼間とは思えないほど暗く静かだった。

 更に進むと、周りの木とは明らかに異なる枝がねじれた腐臭を放つ木が立っているのを見つけた。

 警戒しつつ近づいていくと、突然、その木が動き出し、その幹に巨大な口が二つ、三つと次々と現れる。根だと思っていた部分は蹄を持つ巨大な三本の脚。枝はうねうねとしなり周りの木を薙ぎ払う。そして、幾つも開いた口から涎を垂らし襲い掛かってきた!



battle
黒い仔山羊


 【NAME】は力尽きた……。






 ………………


 …………


 ……


 気がつくとそこは洞窟の中のようだった。薄暗く、天井から水が滴る音以外は何も聞こえない。入り口には鉄格子が見える。ここは牢屋だろうか。

 しばらくするとフードを深々とかぶり顔を隠した男達が5人ほどやってきて、鉄格子の扉を開け中に入ってきた。

「ようこそ。『闇を裂く爪』へ」

 リーダーと思われる一人が静かに話し掛けてきた。

「君達は余計なことを少々知りすぎてしまったようです。本来ならば黒い仔山羊達──先程貴方が戦った闇の眷属のことですね──に処遇はお任せしているところですが、レイドがわざわざ引っ張ってきてしまったのでね」

 レイド? あのしつこい男のことだろうか。

「どうでしょう。我々『闇を裂く爪』に入信する気はありませんか? 悪いようにはしません。我々は外来者には寛容ですから。ククククク……」

 入信? テロリスト集団ではなく宗教団体なのか?

「我々の目指すところは完全なる自由です。そう皆が揃って望むものです。自由を望まない者などいないでしょう? あらゆる束縛、規制、ルール、既成概念からの脱却。人間も動物も植物も誰もが思うままに生きることができる素晴らしい世界を作り出すのです。しかし、その為にはいまあるシステムを壊さなくてはなりません。それを行うのが我々『闇を裂く爪』なのです。ご安心下さい。目的を達成した暁にはもちろん貴方も自由です。しかし、それまでの少しの間だけ我々の仲間として共に行動して頂きたいのです」

 自由の代償に犠牲はつきものというわけか。





【※教団の信者になった場合】


「よろしい。では、こちらに来て下さい」

 言われるままに洞窟の中を進んでいくと、天井が高くドーム状になった広い場所に出た。その中央の床には巨大な魔法円が掘り込まれており、奥には祭壇のようなもの、周囲の壁には燭台が並べられている。

 魔法円の中に立つように促される。広間の中には香が焚かれ、不思議な匂いが充満していた。

 僧侶のような男が現れ、祭壇の上に様々な色の宝石で飾られた黄金の三重冠を置いた。そして僧侶たちの呪文が響き渡る。


  ……ンガイ・ングァグァール・ブグ・ショゴグ・イハア

  ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース

  オング・ダクタ・リンカ

  ヤール・ムテン……


 ……


 ……


 ……


 気がつくと目の前に床が見える。いつの間に気を失ったのだろう。

「気がついたようですね。儀式は終了しました。これで貴方も我々の仲間です」

 特に体の異変は感じられない。気を失っている間に身体に何かされたわけではなさそうだ。

「貴方の持っているショゴスの仔を封じた瓶はカルセオラリアの支部へ持っていけば封を解いて貰えるでしょう。貴方の下僕として使ってください。カルセオラリアの支部の場所はお教えしましょう。中に入るための合言葉は『燃え上がる三つの眼』です。誰かと尋ねられたらお答えください。お忘れにならないように」

 あの肉塊はショゴスと呼ぶらしい。カルセオラリアといえばクンアールの一都市だ。『闇を裂く爪』の隠された支部は既に世界各地に広がっているのだろう。

 

 それから装備などを整え、ようやく外に出られた。

 しかし、特に何をしろという命令は与えられなかった。自由にやれということなのだろうか。洞窟の中にも信者は数えるほどしか居なかったし、魚顔の連中も見当たらなかった。まだ、完全に信用されたわけではないのかもしれない。





【※教団の信者にならなかった場合】


「よろしい。では、ここで消えていただきましょう。改革に犠牲はつきものです」

 リーダーが言うが早いか、周りを取り囲んでいたフードの男達が襲い掛かってきた!



battle
闇を裂く爪


 リーダーの男はいつの間にかいなくなっていた。敵の仲間が大挙して押し寄せてくる前にここから離れなくては。

 洞窟はそれほど大きなものではなかった。ここが奴等の本部というわけではないのだろう。

 出口を見つけた。しかし、衛兵が二人見張っている。



battle
闇を裂く爪


 森を抜け街道まで逃げる。ここまでくれば平気だろう。

 場所が知られた以上、あの場所はすぐに放棄されてしまうだろう。また手掛かりがなくなってしまったようだ。

外なる者   支部

──支部──


 街というものは普通、水源を中心に発展する。人が生活するには水は必須であり、農作物を育てるにも大量の水を必要とする。また、水源が河川の場合、物流が基本となる商業の発展にも役立つ。

 カルセオラリアの街はそのような河川を中心に発展した街の典型的な例だ。必然的に賑やかな街の中心は川に近いところとなり、川から離れるほど寂れていく。

 そんな寂れた地区の裏路地に目的の場所である『闇を裂く爪』の支部はあった。

 一見小さな普通の薬品工場のように見える。実際、看板もここは薬品工場だと名乗っていた。

 ドアには鍵がかけれていた。少し躊躇ってからノックしてみる。

 鍵が外され僅かにドアが開いて、その隙間から男の顔が覗く。


「どちら様ですか?」





 【NAME】は「燃え上がる三つの眼」と答える。


「どうぞこちらへ」

 男の後に付いて行く。

 建物の中は本当に薬品工場のように見える。もちろん、製造されている薬品が普通の薬品かどうかは分からないが。

 ショゴスの瓶詰について尋ねると、あれの封を解けば中のショゴスを従わせることができるので、封を解いてくれるという。

「そこの中央に瓶を置いてください」

 殺風景な小部屋の床に以前見たのと同じような魔法円が白い粉で書かれている。その中央に瓶を置く。

 封を解く前にショゴスがどの程度まで成長するのか不安になり聞いてみた。

「本来のショゴスは無限に大きくなるといっても過言ではありません。太古の高度文明種族が『泡立つ混沌』から作り出した奴隷種族がショゴスであり、その本来の能力が引き出されるようなことがあれば大変なことになります。その種族も増殖し、手をつけられなくなったショゴスによって滅ぼされたという記録もあります。それを現代の魔術によって成長を停止させ、必要な能力──主に力強さですが──だけを残したのが、ガ・ショゴスと我々が呼ぶ生物です。今回は更に小さい段階で成長を止めておきましょう。その分、従属性も低くなるかもしれませんが、初心者には危険ですから」

 男が何か呪文を唱えると、ショゴスは成長を始め、僅かな間を置いて瓶が割れた。

 どんどん大きくなるかに見えたが、男が別の呪文を唱えると成長はそこで止まった。

「どうぞお連れ下さい。但し、餌のやりすぎには注意してください。後始末がいろいろと面倒ですので」

 他にもいろいろ聞きたいことがあったが余計なことは一切教えてくれなかった。やはり信用されているわけではないようだ。

外なる者   指令/宿敵

【※教団の信者になっている場合】


──指令──


 人ごみの中を歩いているとすれ違いざまに突然封書を渡された。振り返ってみるが、既に封書をよこした人物は判別できない。

 封にはどこかで見た記憶のある紋章が押されていた。そう、『闇を裂く爪』の紋章だ。罠の有無を調べ、慎重に封を切る。中には一枚の便箋があり、こう書かれていた。

 

 アグナ・スネフ郊外に『門』を開き『星の精』を召喚する。クンアールの召喚師達もすぐに空間の揺らぎに気づくはずだ。召喚には時間がかかる。奴等の妨害を阻止せよ。

 また、召喚の完了を確認次第、現地より速やかに離脱せよ。『星の精』は極めて危険であり、制御はできないと予測される。

 これによりアグナ・スネフは壊滅的ダメージを受け、クンアールの内政は混乱状態となるであろう。

 諸君等の健闘を祈る


 テロルの指示だ。荷担するにせよ、阻止するにせよ、アグナ・スネフに行かなければならないだろう。





【※教団の信者になっていない場合】


──宿敵──


 次の街へ移動すべく街道を歩いていると、いきなり背後から何者かに声をかけられた。

「うまく逃げ延びたようだな」

 聞き覚えのある声。振り返るとそこにはあのレイドの姿があった。

「まあ、あんな雑魚どもにやられるとは思っていなかったがな。お前を始末するのは俺の仕事だ」

 咄嗟に身構える。

「フ、そう焦るな。今日はお前にいい事を教えてやろうと思ってきたのさ」

 今まで散々追い回しておいてよく言う……罠か?

アグナ・スネフへ行け。奴等、アグナ・スネフでとんでもない化け物を呼び出そうとしている。あれの召喚に成功すれば、アグナ・スネフは壊滅する。信じるか信じないかはお前次第だ。じゃあな」

 レイドは小声で情報を伝えると、何食わぬ顔で反対方向へと歩いていく。何故レイドが敵に情報を流すのか分からなかったが、一概に嘘と決め付けることはできなかった。レイドの表情がやけに真剣だったからだ。

外なる者   恐怖

──恐怖──


 アグナ・スネフ郊外に辿り着いた時、夕闇の中、既に戦いは始まっていた。空間の異常な歪みを感知したアグナ・スネフの騎士と召喚師の一団が、いち早く歪みの中心点に集結したのだ。

 『闇を裂く爪』の召喚師達が召喚の儀式を行っている傍に、アグナ・スネフの魔導師が放った巨大な火の玉が落下し、爆発する。爆炎はその一歩手前で見えない何かに阻まれ消滅する。対魔法障壁が張られているのか。

 アグナ・スネフのルーン騎士が、炎の刻印を纏った剣でショゴスを次々と切り裂いていく。ショゴスは燃え上がり、蒸発する。しかし、そのすぐ後ろから、また別のショゴスが現れ、ルーン騎士をその触手で絡め取る。戦場にいるショゴスは半端な数ではなかった。

 蝙蝠の羽を備えた巨大な蟻のような生き物が、上空からアグナ・スネフの騎士達の後方に位置する召喚師達を狙う。だが、脇を固めるハンターが次々とそれを射抜いていく。

 後方で呪文を唱えていた闇の魔導師が手を大きく天に振りかざす。騎士達、そしてショゴスの上空にぽっかりと暗黒の空洞ができ、紫と緑のガス状のものが噴出し混じりあう。巨大な渦を巻いて広がっていく。騎士達は、突然、頭を押さえて次々と倒れこんでいった。

 しかし、召喚師達も詠唱を終える。炎の精霊が召喚され、地面を覆う炎の渦が巻き起こる。地面を這う雷が次々とショゴスを襲い、続いて無数に蠢くショゴスの中央に巨大な爆発が発生する。その近くにいたショゴスは跡形もなく消え去っていた。


 どちらの陣営も遅れてきたこちらには気づいていないようだ。仕掛けるなら、後方を固める召喚師を奇襲して、すぐさま後退するのがいいだろう。しかし、この状況下で気付かれずに近づくのは難しいかもしれない。





【※『闇を裂く爪』の召喚師を攻撃した場合】


 気付かれないようにゆっくりと『闇を裂く爪』の司祭達が召喚の儀式を行っている場所に近づく。対魔法障壁があるとはいえ、その内側に侵入してしまえば無防備だ。今なら完全に虚を突くことができる。茂みから飛び出し司祭達に向かって真っ直ぐに走りこむ。

 しかし、足をすくうように触手が伸びてきてそれを阻止する。

「ハッハッハ。やはり来たな。必ずこちらに仕掛けてくると思っていたよ」

 この声はレイドだ。そして今までのショゴスより一回り巨大なショゴスがそこにいた。

「言ったろう? お前を倒すのはこの俺だ。今日こそ全ての借り返す!」

 今召喚されようとしているものが召喚されれば、街がどうなるか教えてきたのはレイド自身ではなかったのか。

「ふん! 世界の秩序というのは、いつの間にか俺達の知らないところで勝手に守られているんだよ。ここでお前がどうこうしなくても、あの女が現れて片付けるさ。あいつはこれから召喚される『星の精』なんかよりよっぽどバケモノなのさ。いや、俺達が崇める神よりも強いかもな!なんにしても、お前や俺が心配する必要はないってことさ! さあ、始めようぜ!」



battle
追跡者


「さすがだな……この前よりも更に強くなっている……ククク……次が楽しみだ。また、会おう!」

 レイドが闇の中を走り去っていく。今はそれよりも召喚の儀式を止めなければならない。

 『門』を作り出す魔法円を取り囲み呪文を唱えている司祭の一人を反撃の余地を与えずに倒す。それでも、他の司祭達は召喚の儀式を続ける。最後の一人まで続けるつもりか。魔法円を壊せば……

 すぐさま、魔法円を形作っている白い粉の軌跡を足で散らす。すると、空間のバランスが崩れたのか、ばちっという音と共に物凄い圧力が、魔法円を中心に外側に向かって放出された。たまらず後方へと吹き飛ばされてしまう。

 しこたま打ち付けた背中をさすりながら立ち上がり周囲を見渡すと、同じように司祭達も吹き飛ばされていた。召喚の阻止に成功したようだ。

 作戦の失敗を悟った『闇を裂く爪』の教団員達が撤退を始める。



 勝利したとはいえ、アグナ・スネフ側の損害も大きく、負傷者の収容などでその場はまだ騒然としていた。

 その様子を眺めていると、一人の騎士がこちらに近づいてきた。

「どこの誰か知らんが、君達のおかげで奴等の目論見を阻止できたようだ。ありがとう。これは少ないが謝礼だ。受け取ってくれ」

 アグナ・スネフ衛士団の騎士だと名乗る男から500リーミル入った袋を貰った。

 奴らに関する情報を知っているだけ全て提供し、それから街に戻ることにした。奴等がそう簡単に引き下がるとは思えない。そして、レイドも。





【※アグナ・スネフの召喚師を攻撃した場合】


 茂みに身を潜めつつ、ゆっくりとアグナ・スネフの召喚師達がいる戦場後方へ近づいていく。ここで魔法使い達を片付けてしまえば、物理攻撃には滅法強いショゴスが優位に立つのは間違いない。

 一番手薄なところに狙いを定め、一息で襲い掛かる。



battle
アグナ・スネフ衛士団


 異常に気がついたハンターが援護にやってくる。しかし、まだ数が少ない。



battle
アグナ・スネフ衛士団


 騎士達も気付いて迫ってくる。



battle
アグナ・スネフ衛士団


 そろそろ潮時か。撤退するとしよう。今なら、突然の出来事にアグナ・スネフ側内部は混沌としている。脱出も容易だろう。

 闇に紛れて茂みの中へと身を隠す。今の騒ぎでアグナ・スネフ側の後方支援が途絶え、前線の主導権はショゴス達が押さえたようだ。アグナ・スネフ側は総崩れとなり、全軍の建て直しに時間を取られている──と、その時。

 轟音が響き渡り、地面が大きく揺れた。

 空気が流れ出し薄くなっていくような感覚。

 見ると、召喚を行っていた『闇を裂く爪』の司祭達が何かを叫んで合図している。それに呼応するように『闇を裂く爪』の魔導師や戦士達が散り散りに逃げ出す。戦場に残されたのはショゴス、そして、アグナ・スネフ衛士団。

 召喚の儀式を行っていた場所を見ても、何も見当たらない。失敗したのだろうか?

 突然、アグナ・スネフの騎士が叫び声をあげた。その身体は宙に浮き、あり得ない角度に折れ曲がっていた。

 ──一瞬、赤い色の何かが見えたような──

 どさりとその身体が地面に落ちる。次の瞬間に近くにいた別の騎士の身体が宙に浮き、断末魔の叫びと共にくの字型に背中が折れ曲がる。

 ──まただ。あの赤い色は──

 騒然となるアグナ・スネフ衛士団。間違いなく何かがいる。召喚は失敗などしていなかったのだ。魔導師の一人が悲鳴をあげて倒れる。

 ──あれは血の色──

 徐々に姿が見えてきたそれは、獲物の血を吸い、その色で全身が赤に染まってきたのだ。鉤爪を持つ六つの脚。身体中に触手のような突起。頭のような部位には鋭い牙の並んだ口以外にはなにもない。

 敵を確認したアグナ・スネフ衛士団が攻撃を始める──が、攻撃はことごとくかわされ、辛うじて命中した剣撃も、身体中から生えた突起状のものが衝撃を緩衝してしまう。魔法による攻撃もものともせずに疾走し、次々と獲物を捕食していく。その度に、受けたダメージは回復していくらしく、その動きが衰える気配は全くない。


「──瞳に映るは虚像──」


 どこからか、澄んだ、美しい、しかし、厳格な声が響き渡る。


「──耳に届くは幻聴──」


 鮮血に染まった獣の動きが止まる。そして、その背中の一部が弾け消滅。何が起こったのか、その場の誰もが理解していないようだった。


「──今を決めたのは過去──」


 また、先程と同じ声が聞こえる。突然のことに辺りは静寂に包まれていた。その静寂を切り裂くように……


「──しかし未来を決めるのは今──」


 獣を中心にショゴス達をも巻き込んで巨大な球体が出現する。その全てが粉々になり消滅した。

 そして。

 静寂が訪れた。


 アグナ・スネフの衛士団もあっけにとられている。今のは一体──声はどこから──あれは──

 この辺りの森の木々の中で最も背が高いと思われる木の天辺、その更に上。誰かがそこに立っていた。──ように見えた。次の瞬間にはそこには何もなくなっていた。

 白。微かだが『白』が印象に残っている。白い服? 長い髪──あれは女性ではなかったか?

外なる者   虚像

──虚像──


 目的地まであと少しというところで、周囲の風景が色褪せてきているような妙な感覚を覚える。

 雲が太陽を覆い、全ての色が暗くなるのとは異なる、明るさはそのままに色彩が剥げ落ちていく感じ。無彩色が支配する世界。

 眩暈がする。疲れているのかもしれない。

 水筒の水を飲み、目をつぶって大きく深呼吸をする。

 目を開けた時、目の前に一匹の亜獣が座っていた。

 咄嗟に武器を構えるが、その真っ黒い豹のような亜獣は微動だにせず、こちらを凝視している。

 冒険者としての勘が危険を察知していた。反撃の余地を与えないように素早く、しかし全力で攻撃加える。

 が、次の瞬間に亜獣の姿は消滅し、振り返ると後ろに立っていた。

 亜獣は一度、目を細め、大きく吼えると飛びかかってきた!



battle
大いなる闇の虚像


 亜獣の強さは半端なものではなかった。どうやら手を抜くつもりもないようだ。

 これまでかと思ったとき、どこからか放たれた一筋の閃光が亜獣に命中する。

 亜獣は素早く距離を取り、次の攻撃に備える。

 続いて鋭い雷撃が亜獣を襲う。

 亜獣はこちらを一瞥すると、その姿を消失させた。

 と、同時に辺りの風景も色を取り戻した。

「危なかったわね」

 木陰から細長い筒のようなものを構えた一人の女性が現れた。


「あれは虚ろなる眷属の一員で、そこらの亜獣とは格が違うわ。私の調べたところでは、『虹色の夜』と関係ありそうなんだけど『現出』ではないようね。なんで狙われたのかが知りたいところだけど……」

 その女性はまわりをぐるりと一周し、ジロジロとこちらを見つめる。

「まあ、いいわ。こっちも急いでるから。私の名はメリッサ。この武器は企業秘密。貴方が虚ろなる者に目をつけられているなら、近いうちにまた会うでしょう。気をつけてね」

 黒光りするその筒を背負うとメリッサはすたすたと行ってしまった。

 気をつけろといわれても、何をどう気をつければいいのやら……

外なる者   挟撃

──挟撃──


 オルノルンへの道筋で見覚えのある顔に出会う。

 こちらから声をかけてみるとそっけない返事が返ってきた。

「あら?どこかであったっけ?」

 メリッサはこちらのことなど全く覚えていないようだ。

「もういいかしら。ちょっと急いでるから」

 さっさと行ってしまおうとするメリッサだったが、後ろに知り合いの姿を見つけたようだ。

「こんなところで会うなんて奇遇ね。また私にやられにきたの?」

「チッ、なんで貴様がこいつらと一緒にいるんだ?」

 剣を抜き、フードを取ったその男の顔にも見覚えがある。グラジオラスで撃退した男だ。

 メリッサも剣を抜く。その剣は刃がニ枚重ねになった変わった形をしている。

「クソッ! 今日のところは見逃してやる。だが、次に会った時には……」


 その時、色褪せた刻が何の前触れもなく訪れた。


 背中に鋭い視線を感じる。

 振り向くと背後に、あの漆黒の亜獣が始めからそこにいたかのように座っていた。

「……どうやら、お前達は本当に運が悪いようだな」

 男が口笛を吹くと、遥か上空から蝙蝠の羽を備えた巨大な蟻のような生き物が二匹飛来した。

「マズイわね……ザコ君だけならともかく黒猫ちゃんまでいたとはね」

 メリッサがちらっとこちらを見る。

「でも、条件はこちらも一緒ね。どこの誰だか知らないけど、こいつを使うには安全装置を解除してからちょっとだけ時間がかかるのよ。だから……」

 といって、自分の背中に担いでいる巨大な筒を指す。


「こいつのエネルギーが溜まるまでしばらく時間を稼いで頂戴」







 男がじりじりと間合いを詰めてくる。その表情は余裕たっぷりだ。

 漆黒の亜獣は座ったままその場から動こうとしない。この状況を楽しんでいるのか?

「準備はいい?いくわよ!」

 メリッサはこちらの返事なんて全く聞いていなかった。



battle
大いなる闇の虚像


 メリッサが構えた巨大な筒から光の束が発射される。亜獣に命中した閃光が亜獣の身体を貫通する。命中した部位は塵となって瞬時に消滅した。

 大きな咆哮を上げ、亜獣はこの空間から離脱した。レイドもいつの間にかいなくなっている。

「ふう」

 メリッサは武器を傍らに置くと、息をついて座り込んでしまった。

「これ使うの疲れるのよねー」

 どうも立っている事もできないぐらい疲れている様子だ。

「これは概念転換兵器といって、あんなものあるわけないっていう考え方みたいなものをエネルギーに転換して投射する武器なの。だから使うと頭がぴしぴしって痛いのよね」

 企業秘密を教えてくれるのはいいが、どちらかというとその武器の存在自体が「あるわけない」感じだ。

「ちなみにあいつは嫌いだってのは効かないのよ。感情は思想とは違うからね。普通の生き物には効かないってのも欠点ね。いくら信じられないような生き物でも、ほんとに信じてはいけないものとは違うってこと」

 ……実はかなり使えない武器なのでは……

「それから、どこで手に入れたのかは企業秘密ね。さて、私はそろそろ行くわ。じゃあね」

 メリッサは突然すっくと立ち上がると、概念兵器とやらを背中に担いでさっさと一人で街とは反対の方向に歩き出してしまう。

 こちらもオルノルンへと出発することにした。

外なる者   黒の森の少女

──黒の森──


 ごく普通の黒杉が続く森を奥へ奥へと向かっていくと、徐々に周囲の雰囲気が変わり始める。あれほど囀っていた鳥達の声もいつのまにか遠退き、自分が危険な領域へと足を踏み入れ始めていることを肌で感じ取った。

 森の奥、明らかに『現出』地形と既存地形との境目と思われる場所を見つける。ここから先が本番だ──とその時。


 こんなところで子供達が元気に遊んでいる姿を見つけた。中には女の子も混ざっているようだ。

 ……女の子……も?

 違う。女の子の声しか聞こえない。それも皆同じ声だ。

 木々の間から時折見える姿。格好も皆同じに見える。

 気になって近づいてみる。

 金髪に赤いリボン、青と白のエプロンドレス……皆が皆同じ格好をしている。

 木々の間を走り回り、はしゃぎながら何かを投げている──あれは──兎の死骸?

 

 女の子の一人がこちらに気づき、他の皆も近づいてくる。

 ──皆同じ顔。一斉に放たれる言葉。


「ネェ、いっしょにあそぼう」「ネェ、いっしょにあそぼう」「ネェ、いっしょにあそぼう」






「あそぼう!」「あそぼう!」「あそぼう!」

 女の子達の周囲に陽炎のようなものが立ち昇る。遊ぶって、まさか……



battle
造られし者


 女の子達の攻撃は熾烈で、こちらも手加減はできなかった。

 次々と倒れていく女の子。しかし、その身体は倒れると同時に塵のようになり消滅してしまった。

 最後の一人を倒したとき、そこに残っていたのは女の子達に振り回され、ボロボロになった無惨な兎の死骸だけだった。

外なる者   黒の森のアリス

──黒の森──


 ごく普通の黒杉が続く森を奥へ奥へと向かっていくと、徐々に周囲の雰囲気が変わり始める。あれほど囀っていた鳥達の声もいつのまにか遠退き、自分が危険な領域へと足を踏み入れ始めていることを肌で感じ取った。

 森の奥、明らかに『現出』地形と既存地形との境目と思われる場所を見つける。ここから先が本番だ──とその時。


 間違いない。あの女の子達だ。消滅したはずではなかったのか?

 しかも、前に会った時より数が増えている。

 彼女達もこちらを見つけたらしく駆け寄ってきてまわりを囲む。

「あそぼう!」「あそぼう!」「あそぼう!」「あそぼう!」

 反論する間もなく女の子達は二手に分かれ戦いを始める。そう、彼女達の遊びは戦いなのだ……



battle
造られし者


 遊戯が終わった時、あたりの木々は焼け焦げ、地面にはところどころに大きな凹みができていた。

 敵方になった女の子達は皆塵となって消滅していた。

 こちらについた二人の女の子も服はボロボロで、あちこちに大きな怪我もしている。しかし、平然とした顔でこう言い放った。

「たのしかった!」

 人ではない。しかし、リヴィングデッドというわけでもないようだ。名前はなんと言うのか、どこに住んでいるのか、他にも姉妹がいるのか等、いろいろと尋ねてみる。


「わたし、アリス・○○○! まちがえないでね! あっちのほうにすんでるの! でっかいおやしき! しまいってなあに?」


 指差した先は森の奥の方で、その方角に街や村があるなんて話は知らない。大きな屋敷があれば近くの街の者なら知っていても良さそうだが。

 まだ言葉をあまり知らないようだ。難しい質問をしても『それはなあに?』と逆に質問されてしまう。

 と、唐突に森の中へ駆け出す。

「もうかえらなきゃ! ばいばい!」

 後を追うが、全く追いつけない。こちらは全力で走っているというのに……

 それからしばらく森の中を探索してみるが、その屋敷も含めて何も見つけることはできなかった。



(※アリスの名前○○○はプレイヤーによって異なります)

外なる者   自然の理

──自然の理──


 ごく普通の黒杉が続く森を奥へ奥へと向かっていくと、徐々に周囲の雰囲気が変わり始める。あれほど囀っていた鳥達の声もいつのまにか遠退き、自分が危険な領域へと足を踏み入れ始めていることを肌で感じ取った。

 森の奥、明らかに『現出』地形と既存地形との境目と思われる場所を見つける。ここから先が本番だ──とその時。


 目の前に異形の者達が現れ、行く手を阻む。世界の理を無視したような色彩や形状、動作をしたその化け物達は、明らかに敵意を持ってこちらを出迎えてくれたようだ。



battle
風の使者


 目の前の化け物達を倒して辺りを見まわす。すると、木の陰に隠れてこちらの様子を窺っている少女の姿が見えた。

 ──あの女の子だ。

 そばに行こうとするとすかさず離れて、また別の木の陰からこちらを見つめる。


「……わたしのなまえ、おぼえてる?」

 あの時、最後に別れた子か?





「おぼえててくれたんだ! きょうはおねえさんもきてるんだよ! こっちこっち!」

 お姉さん? 以前、姉妹なのかと尋ねたときは意味が分からないようだったが……

 森を奥へ奥へと進んでいく、彼女が現れる前まであんなに辺りに満ちていた異形の化け物の気配がなくなっている。

 アリスの足は速い。暗い森の中をただひたすら進んでいくと、忽然と大きな古い洋館が現れる。もう何年も人が住んでいないのか、窓は割れ、壁のレンガは崩れかけているところも多い。庭も雑草が生い茂り、あちこちに奇妙な穴が開いている。

 アリスの後について屋敷の中へ入っていく。2階まで吹き抜けになったエントランスに入ると、途端にあちこちから視線を感じる。半分開いた扉の陰、廊下の角、階段の陰、2階の廊下……

「こっちこっち!」

 さっきのアリス──だと思う──が左の大きな扉のところで呼んでいる。中もかなり荒れている。彼女達が遊びまわった結果だろうか。

 そこは大きな客間になっていた。ぐるりと見回すと──そこに見知った顔があった。

「……貴方達、どうしてここへ?」

 今まで見たことがない真剣な表情のメリッサ。殺気すら感じる。

「おねえさん! このひとたちね、ありすとあそんでくれたの! それにね、わたしのなまえ、おぼえててくれたの!」

 それを聞いてメリッサはいつもの表情に戻った。

「そう。よかったわね」

 メリッサは手に持っていた古びた分厚い本を本棚に戻す。部屋の中は窓側以外は全ての壁が本棚になっていた。

 部屋の一番奥から時計の奇妙に調子の外れた時を刻む音が聞こえてくる。

「この子達に認められるなんて、たいしたものね。ところで、貴方、先生とどういう関係?」

 先生? 誰のことだ?


「そいつはな、あの女に危険人物として目をつけられてるのさ」

 振り返ると、戸口に一人の男が現れる。レイドだ。

「!! 貴方、一体どうやってここに……」

 無視して話を続けるレイド。





【※「恐怖」でアグナ・スネフ側を攻撃した場合】


「アグナ・スネフの事件は知っているだろう? 『星の精』の召喚に一役買ったのがそいつさ」

「なんですって!?」


【※「恐怖」で教団側を攻撃した場合】


「アグナ・スネフの事件は知っているだろう? あの時、こいつはギリギリまで巨大化させたショゴスを倒し、『星の精』の召喚を阻止した。あのショゴスを概念転換兵器を使用しないで倒せる程の者を、あんたの先生が放っておくと思うか?」

「確かに危険ね……」





 メリッサは一歩下がり身構える。


「あなたはだあれ?」

 その様子を見ていたアリスがレイドに質問する。

「君のお母さんの敵さ」

 お母さん? 話が全く見えてこない。先生、あの女、お母さん……同一人物なのか? 一体誰のことなのか?

「まあ、お母さんは君達を見捨ててここから出て行ってしまったんだから、君達の敵はお母さんやそこのお姉さんで、私は君達の味方とも言える」

「嘘を教えないで頂戴!」

「嘘ではないだろう? この子達を産むためにこんな現出地形に飲まれた屋敷に引きこもって、用が済んだら一人でさっさと出て行ってしまったんだからな」

「それは貴方達が余計な事を始めたから、先生が世界中を監視しなければならなくなったからでしょう!?」

「お前はまだ半人前の弟子で役に立たないからな。あの女が造ったその武器がないと外なる者に対抗できないのだろう?」

「くっ……」

「そいつらに先生の仕事の手伝いを頼んでみたらどうだ? 先生に目をつけられてるぐらいだから見込みがあると思うぞ?」

「そもそも先生がアリス達を生まなければならなくなった原因も貴方達が作ったんじゃない!」

「それは違う。最初の外なる者の干渉は『虹色の夜』が原因だ。『現出』しちまったのさ。寝所がな。その時現れた旧支配者クラスの存在を撃退する為に、あの女は力を使いすぎた」

「……自然はエントロピーの均衡を保つ為に、先生の中に溜まった膨大な負のエントロピーを形を変えて放出させた……」

「そうだ。この子達が破壊を楽しむのはその為だ。エントロピーとは即ち混沌。秩序を保てばその分の混沌、破壊をどこかに捨てなければならない。ディアボロスでもない限りな。この子達は破壊を行うことで世界の秩序を減らしているのさ」

「でも、この子達は森から出ようとしないし、自分達同士で殺しあっているわ。それではまわりの秩序は保たれたまま……矛盾しているわ……」

「おそらく、あの女の意思が多少残っているのだろう。いや、今でも繋がっているのかもしれないな。だから、お前達には積極的に攻撃してこない。この子達が使う技もあの女のものだろう? 概念凝固なんて他にできる奴はいないからな。ところで、こんなところで何をしているのかな?」

「……貴方には関係ないことよ」

「ふん、これだけ大量に本があったら目的のものを探すのも大変だろう。なんなら手伝ってやろうか?」

 レイドはにやにやしながら、部屋の中を見回している。さっきから喋りながら何かを探しているように見える。

「探し物はセラノエ断章か? 教団の連中がどこから眷属を集めているのかが知りたいのだろう? そいつらに聞いてみたらどうだ? 知ってるはずだぞ」

 レイドはこちらを指差して言った。メリッサが驚いた顔でこちらを見る。

「なんですって?」

「それにお前の先生も常に監視しているぞ。なんだ、先生の居場所も知らないのか?」

「貴方、知っているって言うの!?」

「何故監視しているだけで仕掛けてこないのかは分からないがな。もしかしたら御大の復活を待って元から断とうって魂胆かもしれないな。あちこちで突発的に起こる破壊活動の対処をお前に任せたのもその為だろう」

 レイドは部屋の一番奥を見つめている。

「門はあれか」

「! 貴方の狙いはあれだったのね!?」

「今回は案内役がいたから、あっさりここまでこれたからな。だが、あれは教団の探し物であって、別に俺の目的じゃない。俺の本当の狙いは……」

 傍でつまらなそうにこちらを見ていたアリスが突然大きな声を上げる。

「つまんない! あそぼう!」

 それを合図に別のアリス達も柱や扉の陰から姿を現し口々に言う。

「あそぼう!」「あそぼう!」「あそぼう!」

「ははは、話が分かるな、お嬢ちゃん達は。俺の本当の狙いは貴様だ。俺は貴様さえ倒せれば大満足なんでね。一緒に遊んでもらうぜ!」

 レイドは【NAME】を睨みつけると猛然と襲い掛かってきた。



battle
危険な遊戯


「やはりお前達相手では本気で攻撃しないようだな。あの女の分身である以上、こいつらの実力はこんなものではないはずだ」

 レイドは窓の方へと後退していく。

「しかし、またすぐに再会できそうだな。こちらはここの門の存在を、そちらは教団の拠点を知ることができたんだからな。次を楽しみにしているぞ」

 窓を破って外へと逃げていくレイド。


「さて……」

 メリッサが鋭い目つきでこちらを見つめる。

「質問したいことは幾つかあるけど、今は急がなくてはいけなくなったので一つだけ聞くわ」

 質問したいことが山程あるのはこちらだ。

「『闇を裂く爪』の連中がショゴスや他の眷属を五王朝内に持ち込んでいるのはどこから? きっとその近くに門があるはずだわ」





「分かったわ。じゃあ、私は早速出かけないと……」

 ちょっと待ってくれ。何がどうなっているのか、さっぱり分からない。

「しょうがないわね……じゃあ、街に帰る途中で説明するから……さあ、行くわよ」

 戦いで滅茶苦茶になってしまった本や椅子を適当に片付けると、メリッサはさっさと部屋から出て行ってしまう。

 屋敷から出て森に入る。部屋にいた時から今まで、背後からたくさんの視線を感じていた。アリス達はまだまだたくさんいるのだ。

 

「『闇を裂く爪』教団の連中のやり方は、アグナ・スネフの事件に絡んでるなら知っているわね? 奴等は無差別に街や国を破壊しようとしているわ。でも、奴らの組織は小さい。各国の衛士団が本気になれば何もできない。それで闇の眷属の力を借りようとしているの。そもそも、あの教団ができたきっかけになったのはある一冊の本で、その本には太古に世界を支配していた旧支配者達、その眷属、そして、その召喚方法などが記されていたの。その本をどこで見つけたのかは分からないわ。でも、この世界のものではないようね。おそらくどこかに『現出』したんでしょう」

 メリッサの顔がふと何かに思い当たったような表情になる。

「……レイドが言っていた『寝所』……そうか、現出していたのは闇の眷属だけではなくて、そのとき一緒に他の遺物も現れていたのね……」

 『寝所』……つまり、旧支配者が眠っていた、もしくは、眠らされていた場所ということだろうか。

「とにかく、そのとき現れた闇の眷属は私の先生がなんとか倒したらしいわ。でも、世界の外から現れた巨大な異物を、世界の中の存在が排除した為に、エントロピーのバランスが崩れた……そう先生は言っていたわ。その結果、先生から破壊衝動がアリスという形をとって分離したの」

 エントロピー?

「エントロピーについては私も詳しいことは理解していないわ。混沌の尺度みたいなもの。世界は常にエントロピーが増える方向に向かっていて、それを抑え、秩序を守るのが文明や文化、思想、言葉だって先生は言っていたわ」


 レイドが言っていた『門』というのは?

「『門』は文字通りに外なる世界とこの世界を繋ぐゲートよ。でも、それは場所とは限らないの。星辰であったり、物だったりすることもあるわ。この前のアグナ・スネフの時はおそらく星辰が良かったのね。星が正しい位置についたときに適切な呪文を唱えれば闇の眷属を召喚することができるわ。あの部屋の一番奥にあった棺型の時計も門よ。黒の森には他にも門があるみたいなんだけど、場所は特定できていないわ。もしかすると、あの森全体が門かもしれないわね」


 これからどうするつもりなのだろうか?

「私は貴方の情報を元に先生を探すわ。レイドの話によれば教団の連中は親玉の復活を目論んでるみたいだし。貴方がどうするかは自分で決めなさい。じゃあね」

 いつの間にか森を抜けていた、メリッサはトホルドにはよらずにルアムザ方面へと行ってしまった。

 これからどうしたものか……

外なる者   寝所

──寝所──


 禁じられた無彩色の世界への扉は唐突に開かれた。

 テュパンの街全体がその色彩を持たない帳に覆われている。

 その中心に、やや黒い肌をした精悍な体つきの白髪の男が佇んでいる。男はこちらの到着を待ちわびていたかのように優しく微笑む。だが、その優しい表情とは裏腹に、その顔には尋常ではない恐怖を覚える。

「お待ちしていましたよ。宴の準備が整いましたので、こちらからお誘いに伺おうかと思っていたのですが、お仲間の方の話では、わざわざ来てくださるということでしたので、ここでお待ちしていました」

 なんのことだ?

「おや。あちらのお嬢さんはお仲間ではないのですかな」

 男の指差す方を見る。そこには血だらけで地面に倒れ、ぴくりとも動かないメリッサの姿があった。すぐさま武器を構え男と対峙する。

「もう始めるのですか? 最後の客人なのですから、もう少しゆっくり宴を見物して行ってはいかがですか?」

 ゆっくりと男が前進してくる。全てを圧倒する威圧の壁に押し下げられ、後退る。

「見物人が私だけになってしまっては面白くないですし」

 『闇を裂く爪』の他の教団員はどうしたのだろうか。いや、そもそもこの男の存在は異常だった。外見的には人間らしいが、身体全体が本能的に危険を察知し、恐怖している。

「彼等にはお帰り願いました。この宴には相応しくありませんので」

「帰ってもらっただと!?」

 背後から怒声が響く。この声はレイドだ。しかし、今後ろを振り返ることはできない。

「ふざけるな。教団の隠れ家はことごとくもぬけの空だ。しかも、今までそこに何も無かったかのように跡形も無く、だ」

「おや、まだ残っていらしたんですね。貴方がたの役目は終わりました。もう帰って頂いて結構ですよ」

「貴様が消したのだろう!?」

「消すなんてこと、できるわけがないでしょう? 皆さん、旅行にでも行かれたのではないですか? 門の鑰を貸して差し上げましたので」

「!!」

 レイドが怒りに任せ飛びかかろうとしたその時。

 細い一筋の閃光が白髪の男の目の前を横切り、次の瞬間、極太の強烈な光の束へと広がる。目の前が真っ白になり、少し遅れて凄まじい爆音が周囲を揺るがす。

 あまりの光と音の量に目と耳が沈黙する。

 少しして視力が回復したが、そこに白髪の男の姿は無かった。あの漆黒の亜獣がいる。忌々しそうに亜獣が見つめる先には、白い法衣に身を包んだ長い黒髪の女性がいた。

「残念ながら宴はもうお終いです」

「メイアか!?」

 レイドがメイアと呼んだその女性は、亜獣を睨んだままゆっくりとこちらに近づいてくる。

「貴方の目論みは失敗です。『悪魔の岩礁』に集結していた父なるダゴンと深き者達は、テュパン蒼穹艦隊とラケナリア法術衛士団の総攻撃によって間もなく壊滅します」

 亜獣が更に鋭く睨め付け、後ずさる。

「駄目です。貴方にはここで私に付き合って頂きます」

 メイアの突き刺さるような鋭い言葉が亜獣の動きを止める。

「はっはっは! なるほどな。全部あんたの計画通りってわけだ」

 レイドも亜獣から目を離そうとしない。

「それは違います。エーデンバーグ襲撃を防げたのは姫様のおかげですし、アグナ・スネフの件を容易に済ますことができたのも、結果的には【NAME】や貴方のおかげです。私がそう仕向けたわけではありません」

「俺は別に何もしてないぜ」

「ともかく、彼の目論みはここまでです。彼にとっては暇潰しのお遊びでしかないかもしれませんが、これ以上世界に混沌を呼び込み、人々を混乱させるのを放置するわけにはいきません」

 亜獣がにやりと笑う。

「では、いきます。援護をよろしくお願いします。準備はよろしいですか?」

「俺はいつでもいいぜ。奴を浮かせてくれれば、俺の必殺剣の餌食にしてやるさ!」

 メイアとレイドの動きが止まり、亜獣との間に緊張が走る。これが最後の戦いとなるのか……








battle
大いなる闇の虚像


 亜獣が一際大きく空に向かって吠えると、その身体は黒い染みとなり、空に溶け込むように霧散した。

 色を取り戻す世界。

「終わったな」

 剣をおさめ大きく伸びをするレイド。

 メイアはいつの間にかメリッサのところへと行っていた。回復の魔術をかけているようだ。

「どうだ? 助かりそうか?」

 緊張感のかけらもないレイドが近づいていく。メイアは治療に集中していて返事もしない。

「まだ借りを返してないからな。あんな奴にやられてもらっちゃ困るぜ」

 軽口を叩いてはいるが安否を気遣っているらしい。

 少ししてメイアが立ち上がった。

「これで大丈夫です」

 メリッサが何度か咳き込み、目を覚ました。

「あ……あれ?」

「立ち上がれますか?」

「あ、先生!!」

 驚いて飛び起き、そして、ふらふらとよろけるメリッサ。

「あ、闇の眷属は?」

「俺達が追っ払ったよ」

「しばらくはこの世界に戻っては来ないでしょう」

 消滅させたわけではなかったのか。

 こちらの疑問に気づいたらしくメイアが答える。

「彼を完全に消滅させることは不可能です。彼自身にも」


 沖の方で火の手が上がっている。船が燃えているのか。さっきメイアが言っていた戦闘が行われているのだろう。

「彼が消滅しないのは、彼は『混沌』そのものだからです。混沌がなくなることは世界が完全に停止することを意味します」

「先生、あいつを起こしたのは教団の連中の仕業なのですか?」

「いや、教団の奴等はあいつの正体に気づいていないようだったが……」

「気紛れでしょう」

「は?」「は?」

 メイアの答に皆唖然とする。

「彼がこの世界に干渉してきたのは単なる気紛れでしょう。強いて言えば私が目立ってしまったということでしょうか」

「でも……」

 メリッサは何か言おうとするが、何も思いつかなかったのか、そのまま黙ってしまう。

「貴方達がする全ての行動に何か意味がありますか? 本人にとっては意味のある理由があるかもしれません。しかし、他人から見たらそれは意味のない理由なのかもしれない。いえ、ほとんどの場合、他人にとってはどうでもいい理由の方が多いのです」

「俺なんか何やるにもなんとなくだぜ!」

「あんたはお気楽すぎるだけでしょ」

「彼は混沌です。何もしなくても増えるし、死に絶えることもない。一方で『混沌』は『混沌』ですから、彼は全てであり一つ、一つであり全てです。敵も味方もありません。永遠に孤独です。ですから、彼が何か行動をするのに誰かにその理由を説明する必要などないのです」

「よく分からんな」

「簡単に言ってしまえば『なんとなく』なのでしょう。レイドさんと一緒です」

「おいおい、一緒にしないでくれよ」

「彼が恐れられるのは行動に理由が分からないからです。ある日、突然、理由もなく一つの街を滅ぼしたりする。どうしてなのか分からないから対策も予防もできません」

「確かに訳の分からない人は恐いわね」

「そう、これは何も彼に限ったことではないのです。自分自身にしか分からない理由で凶行を繰り返す人は恐れられます。獣よりも恐れられます。獣が襲ってくる理由は単純だから、気をつければ恐ろしくありません」

「獣は腹が減ってたり、自分のテリトリーに侵入されたりしなけりゃ襲ってこないな」

「ですから、他人を知ることは重要なのです。いえ、他人に自分を知って貰うことが重要なのです。自分だけの閉じた世界に篭っている人が増えると、世界は疑心と恐怖に覆われていき、彼が現れなくても破滅へと向かうでしょう」

 教団はそういった連中の集まりだったのかもしれない。彼等は顔を隠し、素性を隠し、自分と他の団員との区別がつかないようにしていた。

「教団の方々はおそらく自ら望んで『孤独』な世界に行ってしまったのでしょう。もう戻ってくることはできませんが」

 彼等はそれで満足しているのかもしれない。もちろん、本人達にしかそれは分からないのだが。

「終わったようですね」

 メイアは海の方を見ている。いつの間にか海の方は静かになっていた。戦いが終わったのだろう。

「これで全て終わりました。皆さんの協力に感謝します」

 メイアは一歩下がり、皆に向かって深々と頭を下げた。


「ところで……レイド、なんであんたが一緒にいるわけ!?」

「今の先生の話、聞いてなかったのか? なんとなくだよ、なんとなく。はっはっは」

「そんなんで納得できるわけないでしょう!」

「私一人では手におえない可能性もあったので、手伝っていただいたのです。こちらの方にも」

 メイアはこちらに向き直ると法衣の中から何かを取り出し、こちらに差し出した。

「手伝って頂いたお礼に、この鍵を差し上げます。これは黒の森の地下遺跡に眠る『門』を開く鍵です。その先はドリームランドと呼ばれる世界へと繋がっています。こことは別の位相に連なる世界で危険も多いでしょう。しかし、貴方の探求心を満たす何かがあるかもしれません。地下遺跡の入り口の場所も、度重なる『現出』の影響で分からなくなってしまっていますが、興味がおありでしたら探してみてください」

 メイアから古びた銀色の大きな鍵を受け取った。ずしりと重いその鍵に掘り込まれたアラベスク模様からは、異界的な雰囲気が感じられた。

「俺はまた面白そうなことでも探すとするぜ。教団にくっついてれば色々世界の裏事情が分かると思ったんだがな。影でコソコソしてるばかりで飽きてきたところだったし、壊滅してくれて丁度良かったかもな。ハハハ」

「貴方には教育しなくてはならないことがあるようです。どうですか、ここで私と一戦やりますか?」

「ま、まあまあ。俺もちょっとは懲りてるんだ。それは勘弁してくれ」

「まったく……いつもでかい口ばかりで、全然たいしたことないね。あんたは」

「お前に言われたくないね。その武器がないと全然ダメなんだろう?」

「そんなことない! よし、じゃあここで一戦……」

 メイアが二人を鋭い目つきで睨んでいる。

「ま、まあ、決着はそのうちつけるということで……【NAME】、あんたとの決着もいずれつけさせてもらうぜ。じゃあな!」

 颯爽と去っていくレイド。しかし……

「なんかカッコ悪いわよね。本人は格好つけてるつもりなんだろうけどさ」

 そう、そんな感じだ。

「あたしはまた世界を旅しながら監視を続けるつもりよ。先生はどうされるのですか?」

「私は初級冒険者養成所の仕事がありますので」

「え!? あそこって先生がやってらしたんですか!?」

「知らなかったのですか?」

「……だって、あたし別に初級冒険者じゃないし……って、教えてくれてもいいのに……」

「ときどき黒の森の屋敷に戻りますが、たいていはあそこにいます。この世界の未来は貴方達冒険者の働きにかかっているのです。それを正しい方向に導くのが今の私の仕事です。もしお暇ならいらしてください。いつでもお相手させて頂きます」

 にっこり笑うメイア。

「先生、本気はなしですよ?」

「さあ、どうでしょう?」

 二人は街に向かって歩き出す。ようやく全てが終わったようだ。ふと、銀の鑰に目がいく。……いや、これから始まるのだろうか……

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