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果樹園の魔女

──果樹園の魔女──


 枯れて朽ちかけた低木の間を抜けていく。時折、鼠か何かが木を齧っているような音が聞こえる。地面は枯れ葉が堆積して出来たのかやけに緩い。そして、屋敷に近づくにつれ空気に僅かな腐臭が混じり出し、耳障りな蝿の羽音が聞こえ出す。かなり肥えた蝿のようだ。

 屋敷の周囲は鉄柵が囲い、玄関の正面に位置するところには元々扉が付いていたようだが、今それは見当たらない。そこを通り抜け玄関に近づくと、地面が盛り上がり招待していない客をもてなす執事が現れた。



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呪われた執事



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呪われた執事


 パン、と手を叩く音がすると際限なく現れるのかと思われたグール達が、攻撃をやめて再び地面へと潜っていった。音のした方に目をやると、裾の長いローブにつばの広いとんがり帽子を深々とかぶった髪の長い女性が、いつの間にか屋敷の玄関に立っていた。

 襲い掛かってくるわけではなさそうなので、ゆっくりと武器を収めてそちらに向き直るが、その間一言も発しない。

「……あの、もしもし?」

 少し間をおいてリトゥエが話しかける。

 こちらを見つめてはいるが返事はない。

「おぅい」

 どうやらリトゥエの方をじっと見つめている。すると、リトゥエを指差し、

「鳥?」

「蜂?」

 この辺にも奇妙な生物は幾らでもいると思うのだが、所謂妖精に類するものは珍しいのだろうか。何やら珍しいものを見つけたような反応だ。

「……ハエ?」

「ちょ! 幾らなんでもハエはないんじゃないの!?」

 リトゥエが猛烈に怒り出すが、話がこじれ出す前にリトゥエを無視して状況を説明する。その間もずっとリトゥエを見つめていたが、こちらが喋り終えると彼女は屋敷の左前方を指差した。

「村はあちら」

「ちょっと貴方もなんとか言ってやってよ!」

 何故こんなところにいるのか、さっきのグールは何だったのか等、気になることは幾つかあるが、長居するとややこしい事になりそうなので、早々に礼を言って立ち去ることにする。

「またそのうち来てね。結界張ってあるけど自分で何とかしてね」

「無視するな!!」

 後ろからハエに頭をぼこぼこ殴られてる気がするがきっと気のせいだろう。



 村に帰ってくると、普段向こうから話しかけてくることなどない村人の一人が話しかけてきた。

「……あんた、魔女とは関わりあいにならない方がいい。この村全部を敵に回したくないならな」

 それだけ言うと村人は家に引っ込んでしまった。普段とは違う妙な視線を感じる。

「魔女ってさっきの彼女のことかな?」

 おそらくそうなのだろう。一体どういうことだろうか……

果樹園の魔女   お使い

──果樹園の魔女──


 枯れて朽ちかけた低木の間を抜けていく。時折、鼠か何かが木を齧っているような音が聞こえる。地面は枯れ葉が堆積して出来たのかやけに緩い。そして、屋敷に近づくにつれ空気に僅かな腐臭が混じり出し、耳障りな蝿の羽音が聞こえ出す。かなり肥えた蝿のようだ。

 屋敷の周囲は鉄柵が囲い、玄関の正面に位置するところには元々扉が付いていたようだが、今それは見当たらない。


「また来てくれたのね」

 屋敷に住んでいると思われる不思議な女性が玄関に立っていた。

「今日は何の用?」

「名前も聞かずにいきなり用件から入るのね」

 リトゥエが外方を向いたまま、わざと聞こえるように独り言を言う。この前のことをまだ根に持っているようだ。

「それもそうね。それじゃ、貴方の名前教えて」

 ここへきて初めて名を名乗る。リトゥエもしぶしぶ名前を告げた。

「そう、リトゥエちゃんね。それじゃ、立ち話もなんだし、中へどうぞ」

「ちょっと! 人に名乗らせておいて自分は名乗らないわけ!?」

「見ず知らずの怪しい人に名前を教えるほどお人好しじゃないし。どこで勝手に名前使われるか分からないでしょ」

 確かにちょっと道を尋ねただけの人の家に再び現れるような人は、ともすれば怪しい人だが、どう見ても怪しさではそちらの方が上である。しかし、せっかくなので怪しい屋敷の内部も拝見させて頂こう。



 外見からしてかなり古い屋敷のようだったが、中は外以上に老朽化が酷く──というより、掃除を全くしていないのだろうか。あちこちに埃が堆積し、蜘蛛が巣をつくっている。

 しかし、案内された部屋だけは違っていた。綺麗に掃除されていて、壁紙や家具も新しいものになっている。そして、家具の上や窓際には色とりどりな衣装の様々な人形がずらりと並んでいた。

「それで。今日は何の用?」

 実のところ何か用件があるわけでもないのだが……

「うわ、何この人形。これ全部魔動体?」

 リトゥエが人形を見て回っている。

「そうよ。わたしのかわいいお人形さん達」

 今のところ動いていないが、これが全て動き出すということだろうか。と、そこへ一匹のグールが現れた。思わず身構える。

「大丈夫。紅茶を持ってきただけだから」

 そのグールは手にティーポットとティーカップを持っていた。グールはそれらをテーブルに置くと、そのまま部屋から出て行ってしまった。

「アレもあなたが操ってるのね」

「操ってるとは失礼ね。家事手伝いをお願いしてるのよ」

 魔女らしき女性は一人で紅茶をすすりはじめる。

「客である私達の分はないわけ?」

「あの人達融通が利かないのよね」

 特に用意させる気もないようだ。

「そんなだから村の人達に嫌われるのよ」

 リトゥエがそれとなく話を振る。

「あら、名前も知らないような人から嫌われたって関係ないでしょ」

「貴方が名前を教えないから、向こうも教えてくれないんでしょう」

「あそこの人達は隣同士でもお互いの名前も知らないわよ?」

 しかし、余所者に対する態度から察するに、村人同士の結束は固そうだったが。

「そうなのよね。お互いに相手のことを知ろうとしないし、自分のことも話したがらないのに、何故か寄り集まって団結してるのよ。宗教パワーなのかしら」

「で、なんで貴方は仲間外れなわけ?」

「さあ? 知らない。宗教には興味ないし」

 しかし、こんな辺鄙なところに住んでいて、食料等はどうしているのだろう。

「ときどき村からまとめて買ってきて貰ってる。家政婦に」

「え? 家政婦ってまさか……」

 あのグール達のことだと思って間違いないだろう。

「大丈夫。お金はちゃんと渡してるから。盗んだりはしてないわ。たぶん」

「たぶんって……。そのお金はどうしてるのよ?」

「大丈夫。彼等に仕事させて稼いだお金だから。盗んだりはしてないわ」

「仕事って何の仕事よ」

「さあ? 知らない。自由意志を尊重してるから」

「……」

 最初に襲われた理由が分かった気がする。そして、村人に嫌われている理由も。

「あ、そうね。それじゃ、彼らの代わりに村で買い物をしてきてくれないかしら? せっかくこんなところまで来てもらったんだし」

「どういう理屈!?」

「大丈夫。お金はちゃんと払うから。後払いで」

「代金だけじゃなくて仕事料は!?」

 いや、そうじゃなくて。

「大丈夫。それも用意しておくから」

「そう、それならいいけど」

 いいらしい。

「それじゃ──」


「【NAME】は○○○○を買ってきて」


「リトゥエちゃんは──」

「私も!?」

「ちっちゃいから許してあげる。いずれ他の事を頼みたいし」

 彼女はリトゥエを見て和やかに微笑む。

「ふぅ、危なかった……って何? 他の事って?」

「それじゃ、よろしくね」

 言うが早いかすっくと彼女は立ち上がった。その目は無言で「さっさと行け」と言っているようだった。

 一旦、村に帰るとしよう……






 屋敷の周りの果樹園はどの木も枯れ果てていて、周囲の見通しはかなり良いと言える。こちらが来るのも屋敷から丸見えなのだろう。屋敷に着いた時、魔女は既に玄関の前で待っていた。


「お使いは済んだかしら」


「買ってきてくれたのね。助かるわ」

 魔女は品物を買い取ると、そのまますたすたと家の中へ入っていこうとする。

「ちょっと! 報酬はどうなったの!?」

 リトゥエが素早く彼女の前へ回り込む。

「そういえば、そんな話もあったっけ」

「有耶無耶にしようとしてる!」

「そうね、納屋から好きなものを持ってって」

「ろくなものがないんでしょ」

「そうよ」

「……」

 返す言葉もない。

 納屋で貰える物を貰ったらさっさと村へ帰ろう。

果樹園の魔女   魔女の報酬

 屋敷の脇にある納屋にはやけに頑丈な扉が備え付けられていた。それを開き中を覗くと──

「ククククククケクケクケルクケルキ!」

 奇妙な雄叫びと共に中に設置されていた機械人形が襲い掛かってきた!



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危険な農耕機


 機械人形を倒し中を物色して見るが、ろくなものどころかほとんど何もない。ずっと使われずに放置された鍬や鋤、ぼろぼろになったロープ、そんなものしか置かれていない。唯一使えそうなのは、この機械人形の装甲ぐらいだろうか。

 この機械人形はどこかから盗──拾ってきたのを自動農作機として操っていたのだろうか。あの火炎放射の凄まじさからして、果樹園をあんなにした犯人はこいつのような気もするが。

 しかし、この機械人形、どこかで見たことがあるような……

果樹園の魔女   井戸

──果樹園の魔女──


 屋敷に近づくと屋敷の中から出てくる人形達に出くわした。部屋に飾ってあった人形達だ。古い木の机を運んでいる。机の四本の脚をそれぞれ一体ずつが支えて器用にバランスを取っている。彼女達の大きさからすると机は巨大で、四人であれを支えているということは人形達はかなりのパワーがあるのだろう。着ているヒラヒラの洋服が異彩を放っている。

「どこに持っていくのかしら?」

 リトゥエが人形の後を着いて行く。


 人形達は屋敷を出るとそのまま屋敷の横手の方へとトコトコ進んでいく。ついて行ってみると、井戸の前に他の人形達がいるのが見えた。その傍には家具や木箱が並べられている。井戸の釣瓶を利用して井戸の中にそれらの物を降ろしているようだ。

「あら、来てたの」

 魔女はそこで並べられた椅子のひとつに腰掛けて、ティーカップ片手に人形達の仕事ぶりを監督していた。

「泥棒がばれて地下にでも引っ越すのかしら」

 リトゥエの先制攻撃。毒。

「泥棒に入られたから警備を強化してるの」

 家具や金品を井戸に隠しているということだろうか。

「泥棒が入ったのは家屋の方じゃなくてここ」

「井戸の中に盗みに入る泥棒なんていないでしょ。っていうかそれ泥棒じゃないでしょ」

「この下に置いておいた大事な研究資料が盗まれたの」

「なんでそんなものを井戸の中に持って入るのよ」

「研究対象がそこにあるから」

 井戸の中で何を研究しているというのか。

「あれ」

 魔女は森の向こうに見える巨大な黒い石柱の方を指差した。

「あの石柱?」

「そう。正しくはあの柱の基部だけど、かなり深く埋まってるからここから穴を掘っていたの」

 それにしては随分と遠い。

「縦穴掘るの大変そうだったから、この井戸を利用しただけ。柱に近づくと村の人達がうるさいし」

 あの石柱については村人は何も知らないようだったが、何か分かったのか尋ねてみる。

「見ず知らずの人に教えるわけないでしょ」

 未だに見ず知らずの関係から一歩も前進していないようだ。

「この前、買い物してきてあげたじゃない!」

「その代価は払ったでしょ」

「あの納屋のゴミのこと!? っていうか機械人形に襲われたし!」

 そうそう、あの機械人形はどこから拾ってきたのか。

「ああ、あれは門の向こうで拾ってきたの。壊れてたから直してみたんだけど、やっぱり壊れてたのね」

「あの門、貴方が造ったの!?」

「違う。元からあった。ここに来た時に使ったのとは別のだけど」

「え? 貴方も余所からここに来たの?」

「そう。それ以上は教えてあげないけど」

 あの石柱も門と同じ性質のものなのだろうか。

「違うみたい。砲より門の方が遥かに高度な物ね」

「砲?」

「あ」

 あの石柱のことだろうか。口を滑らせてしまったようだ。

「……仕方ないからリトゥエちゃんには特別に教えてあげる。あれは武器の一種。あの先から光の束が出て、空の何かを撃ち落すのに使うみたい。セラフィックレイストーム?みたいな感じ」

「なんでグローエスの技法まで知ってるのよ……」

「以前、穴を掘る為の道具を探しに行った時に店にいた人に教えてもらったの。壁を壊すならセラフに限るって。店員に注文したら自分で覚えろって言われて、結局買えなかったんだけど」

 いや、売り物じゃないし、そこはたぶん店でもない。

「それで、あれは先端部分でしかないから、地下の基部を調べてたの。興味があるなら見に行ってもいいけど、壁紙貼ってるところだから今日はダメ」

 そういうと魔女は空になったティーカップを手に立ち上がり、一人で屋敷の方へ行ってしまった。これ以上は自分で調べろということだろうか。

 調査用の坑道に壁紙が必要なのかどうか疑問だが、今日のところは引き返すとしよう。

果樹園の魔女   黒い石柱

──黒い石柱──


 村を出て野原の向こうに聳える黒い石柱を目指す。村からでは距離が良く分からずその大きさも分からなかったが、近づいてみてその巨大さに驚愕する。幅は十メートル近くあり、高さは数十メートルといったところか。

 村人はこの石柱についてほとんど何も知らないようだった。彼らや彼らの親、そのまた親が生まれる遥か昔から存在し、関連する伝承も一切残っていないようだった。





 石柱に近づいていくと、その根元のところから何かが湧き出ているのが見えた。それが何なのか調べようと更に近づくと、その赤黒い液体は突如大量に噴出し、巨大な塊へと変化していった。



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沸き立つ混沌


 肉塊を焼き払うと液体が湧き出す速度が遅くなった。しかし、止まったわけではなく、滲み出す速度も徐々に上昇してきている。

 急いで肉塊の断片を幾つか回収し、その場を早々に立ち去ることにした。


 掲示板にあった悪臭を何とかしてくれという依頼はこれで達成できたのだろうか……

 そもそも誰が書いたものかも分からないので、報酬を貰う術もないわけだが……

果樹園の魔女   番犬

──果樹園の魔女──


 屋敷に近づくと屋敷の中から魔女が出てきた。

「もう入ってもいいわ」

 まだ何をしに来たのかも告げていないのにいきなりである。どこのことか。

「井戸に決まってるでしょ」

 井戸を降りて石柱の基部を調べて来いということらしい。

「何か見つけたら報告よろしくね」

 問答無用である。


「あら、それどこで見つけたの?」

 魔女がプチブルショゴスを指差している。

 石柱での一件を話すと無表情に「無理に押し込んだら上に漏れちゃったのね」と、さらっと流された。どこに押し込んだのかは知らないが傍迷惑な話である。


 興味があるのも確かなので井戸に向かう事にする。

「そうそう、番犬がいるから気をつけてね。多少痛めつければおとなしくなると思うけど、殺しちゃダメよ?」

 手加減しろということらしい。



 井戸の内側には下に降りやすいように梯子が取り付けられていた。これでは下に何かありますと自ら言っている様なものだ。

 番犬とやらはどこかと梯子の途中から下を覗いてみると、井戸の底には巨大な蛸が触手をうねらせ待ち構えていた。梯子をつかんでいる手を離し、空中で武器を抜いて蛸の頭へと先制の一撃を加える。

 次の足場は……左手に側道がある。咄嗟にそちらに飛び退り体勢を整える。



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井戸の番人


 ある程度痛めつけると、こちらに恐れをなしたのか蛸は攻撃をやめて隅の方へ引っ込んでしまった。

 蛸の横を通り抜け、側道を奥へと進んでいく。壁は一面ピンク色の壁紙で覆われていて、しかも不気味な襞のような模様が描かれており、まるで内臓の中を歩いているような嫌な気分にさせてくれる。

 一本道を進んでいくと扉に突き当たった。頑丈に施錠されているのが一目で分かる。

「入っていいって言った癖に!」

 リトゥエが鍵をがしがし引っ張るがびくともしない。これは一度戻って鍵を借りてこないとこれ以上進めそうにない。

 帰りも蛸が待ち構えていたが、こちらを認識するとささっと奥へ引っ込んだ。学習能力は高いようだ。

 井戸を出て屋敷の玄関へ向かう。しかし、いつもは待ち構えている魔女の姿はそこにはなかった。扉を叩いても大声を出してみても、誰も出てくる様子はない。どうやら鍵をかけたことを忘れて外出してしまったようだ。ここで待っていても仕方ないので、一旦村に帰って後日出直すことにしよう。

果樹園の魔女   井戸の奥

──果樹園の魔女──


 屋敷は静まり返っている。扉を叩いても誰も出てくる気配はない。

 しかし、鍵を手に入れないことには井戸の調査もままならない。途方にくれていると井戸の方から閃光とそれに続く爆音、そして振動が伝わってきた。急いで見に行くと井戸の中から煙が立ち昇っていた。誰かこんな狭い中で術式でも使用したのか。そういえば、泥棒がどうこうという話を魔女がしていたのを思い出した。件の泥棒が現れたのかもしれない。慎重に井戸を降りてみることにした。


 井戸の底の番犬は完膚なきまでにやられていた。魔女が自分の番犬相手にここまでするはずがない。どうやら侵入者は泥棒で間違いなさそうだ。

 先程まで悩みの種だった扉は木っ端微塵に吹き飛ばされていた。これで堂々と調査に行ける。泥棒に礼を言いたいぐらいだ。


 横穴をしばらく進んでいくと、前方の暗闇からぶうんという低い音が断続的に聞こえてきた。それもどんどん大きくなってくる。闇を裂いて現れたのは虫の大群だった。どう見ても蚊の大群だ。何故闇の中ですぐさまそれが判断できたのか──

 その蚊一匹一匹が途轍もなく巨大だったからだ。



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チルドレン


 なんとか全て追い払うことに成功した。呼吸を整え先を急ぐことにする。





 しばらく進むと不気味な壁紙の横穴は左右に伸びる石造りの通路に到達した。通路は幅も天井の高さもやけに広く、壁と天井には奇妙な幾何学模様が並んでいる。そして、天井の模様はぼんやりと光を放ち通路全体を照らしていた。何か高度な技術によるものであることは明らかだ。どうやら目的地は近い。

 どちらに進むべきか迷っていると、左の方から物音が聞こえてきた。何者かが戦闘を行っているようだ。そっちか──

 左の方へ進むと、前方で一人の男が先程の蚊と戦っているのが見えた。苦戦している様子もないので、加勢する必要もないだろうと思っていたが、蚊の方はそんなことはお構いなしのようだ。



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セカンドジェネレーション


「また会ったな」

 そこにいたのはレイドだった。一体こんなところで何をしているのか。

「なに、ちょっとお嬢ちゃんが面白いものを見つけたっていうから見に来てみたんだが。予想以上に面白いことになってたもんで──」

「おわった?」

 奥の柱の影から一人の少女が出てきた。金髪に青のエプロンドレス。黒の森のアリスだ。しかし、若干印象が違うような……

「ああ、もう大丈夫だ。手伝ってくれそうな連中が現れたんでな」

「誰も手伝うなんて言ってないでしょ! それに貴方達の容疑はまだ晴れてないん──」

「わたしはアリス・ユヌス。よろしく、しらないひとたち」

 唐突にアリスが自己紹介をはじめる。しゃべりは子供っぽいが、その言葉は今まで会ったアリスとは違い大人っぽい印象を受ける。

「それでは、あれがかえってくるまえにさきにすすみましょう」

 というと、スタスタと進み始める。一切説明はなしなのか、とレイドの方を窺ってみる。

「あー、まあ、歩きながら説明するから、とりあえず一緒に行くってのはどうだ? たぶん、目的地は一緒だろ」

 知らない仲でもないし、さっきの虫共がまた現れると骨が折れるので、こちらとしては一緒に行くことに吝かではない。が、リトゥエはご立腹の様子。どうもアリスが好きじゃないようだ。しきりにぶつぶつ言いながら後ろの方から付いてきていた。





「ここを造った連中は空から来る何かを恐れてこの施設を建てたらしい」

 通路を進みながらレイドの話を聞く。

「嬢ちゃんの片言から察するに、その連中はその後、その空から来た何かと戦ってほとんど壊滅しちまったようだ。幾つもあった施設も残らず潰されたが、ここだけは原型を留めたまま地中に埋まったんだそうだ」

 そのお嬢ちゃんは前の方を一人でスタスタと歩いている。危険ではないのかと訊ねてみたが、こちらが危険に気づくよりずっと前に彼女の方が気が付くから大丈夫だそうだ。しかし、教えてはくれないらしい。

「で、なんでこんなとこまで出向いてきたのかっつうと、トホルドに立ち寄ったら嬢ちゃんが一人で街をウロウロしててな。何してるのか聞いてみると椅子だかなんだかを探してるって言うんだよ。意味分からないだろ?」

 トホルドにも家具屋ぐらいあるんじゃないか? なんでそんな話を始めるのかが分からない。

「いや、それでな。しばらく一緒に歩き回ってたら、なんだか怪しげな女の後をつけ始めたんだよ。しかも、どうやらその女、グローエスの人間じゃない。これは何か面白いことになりそうだ、と」

 で、ここまで後をつけて来たらしい。それがあの魔女だったようだ。

「それで、ここから何を盗んだのよ?」

「いや、まだ何も盗ってないぞ? 目的の物を見つけはしたんだが、それを護ってる連中がいてな」

 それは金属製の筒のような物で、実際のところ何なのかは未だにアリスから聞き出せていないようだ。


 通路を進んでいくと、かなり大きな広間に出た。中央には二本の巨大な柱があり、天井を支えている。壁面から天井にかけてはドーム状になっていて、通路同様幾何学模様で埋め尽くされている。

 柱には曲がりくねった溝が何本も下から上へと連なっている。何気なく柱に近づきそれに触れようとすると、その溝に光が走り、その内の一つに沿って柱がゆっくりと二つに割れた。

 そして、中から巨大な「顔」が出てきた。


「で、あれがそいつらなんだけど」

「ぼうえいそうちね。みなさん、がんばってください」

 アリスはそう言い残すと、一人でスタスタと部屋から出て行ってしまった。



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ダブルデビルス


 広間には入ってきた通路以外の出口はなかった。ここで行き止まりのようだ。

 広間には金属製の板が幾つも縦に挿された箱や、金属製の筒のようなものが設置されている棚などが並んでいる。幾つかを調べてみたが何なのかさっぱり分からない。

「これこれ」

 アリスはその筒の中から一つを選び出すと大事そうに抱えて持ってきた。一体何なのだろう。

「これはわたし」

 意味が分からない。

「あんまりのんびりしてる時間はないぞ。仕掛けに反応があった、どうやらあいつが帰ってきたようだ。各自好きなもん盗ったらずらかるぞ」

 まるっきり泥棒の台詞である。

 しかし、好きなものといってもこの黒い水晶以外には目ぼしい物は見当たらない。

「それ、鍵だから」

 この水晶のことだろうか。鍵といってもどこの鍵なのか。

「……」

 多くを語らないというより、肝心なことをわざと言わずに楽しんでいるのか。



 一旦、井戸から出て森の中に身を隠す。魔女は一度館に入ると、しばらくしてから井戸へと降りていった。

「俺達は目的の物が手に入ったんで帰るが、お前達はどうするんだ?」

 このまま魔女に何も報告せずに姿をくらますのも寝覚めが悪いので、適当に言い繕っておくことにする。

「そうか……ただ、あの女は何か嫌な感じがする。気をつけろ」

 そういい残すと、レイドとアリスは森の中へと消えていった。さてこちらは、魔女に言い訳でもしに行くとしよう。



「ちょっと来るのが遅かったようね」

 いかにも今まさに来たような振りをしてみたのだが、物を盗られている事に気づいていないのか、魔女は何故か上機嫌で金属板や筒を調べて回っている。

 ……。

「何してるの? もう帰っていいわ」

 せっかく色々言い訳を考えていたのに台無しだ。

 もしかしてレイドと自分達は嵌められたのではないかと思いつつ村へ帰ることにした。

果樹園の魔女   異界の魔女

──黒い石柱──


 村を出て野原の向こうに聳える黒い石柱を目指す。村からでは距離が良く分からずその大きさも分からなかったが、近づいてみてその巨大さに驚愕する。幅は十メートル近くあり、高さは数十メートルといったところか。

 村人はこの石柱についてほとんど何も知らないようだった。彼らや彼らの親、そのまた親が生まれる遥か昔から存在し、関連する伝承も一切残っていないようだった。





 石柱に近づいていくと、【NAME】が持っていたヘキサグランデが輝きだし、それに呼応するように地面から漏れ出した眩い光の円が取り囲む。その光が輝きを増し、世界が真っ白になった次の瞬間、今まで立っていた場所とは異なる場所へと移動していた。


 どうやらここは魔女の屋敷の井戸から侵入した遺跡の内部のようだ。この「鍵」があれば壁に穴を開けなくても中に入れる、ということらしい。

 遺跡の内部はひんやりとしていて、ここが地下深いところであることを感じさせる。日の光は全く差し込んでいないが、天井がぼんやりと光っている為、辺りは真っ暗ではない。しかし、空気は湿気を含んで重く、そして、生臭かった。


 始めに降り立った場所は狭い小部屋だ。そこから外に出ると緩やかな弧を描いた通路に出る。そして、すぐに何かが甲高い金属音を発しながら近づいてきた。



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彷徨う混沌


 戦闘を終え振り返ってみると、今出てきたはずのところは壁になっていた。しかし、よく見ると壁の模様がその周囲の壁とは異なっている。詳しく調べようと近づくと、壁がせり上がりその先に先程の小部屋が現れた。離れるとまた壁が降りてくる。どうやら隠し扉になっているようだ。

 それを確認した上で通路を見回してみると、同じような隠し扉が通路沿いに幾つも並んでいるのが分かった。


 扉に向かって右にも左にも同じように通路が続いている。この通路が回廊だとすると、右は時計回り、左は反時計回りということになるだろうか。

 目の前の扉は今出てきた扉だ。






 扉の中に入ってみる。

 そこは三日月形をした大きな部屋になっていた。卓状の石塊、鏡面のごとく磨かれた巨大な石版、金属製の円筒状のものなどが綺麗に配置されている。

「いらっしゃい」

 そこで待っていたのは果樹園の屋敷の魔女だった。

「やっと準備ができたから」

 ここで一体何を……

「構成因子がこのへんの生物と違うから苦労したわ」

 何のことだか良く分からないのはいつものことだが、いつもと雰囲気が違う。

「古い資料を手に入れるのにも苦労したわ。あれが暴走してるなんて」

 彼女の後ろに飛んでいるのは何だろうか。ここからでは良く見えない。

「あ、そういえば他にも暴走してるのいたわね。制御因子に……した……因子が劣化するのかしら」

 ふと横を見ると、リトゥエがプルプルしている。これはマズイ。

「この子達はもとから暴走気味だけど」

「ちょっと!!」

 あれはもしかして。

「それは一体何!? 私に隠れてなに勝手に作ってるの!」

 リトゥエ――の複製だ。しかも何体も。

「どう? よくできてるでしょ。リトゥエちゃんはいつも戦闘サボってるから、粉とか集めるの大変だったし」

「サボってるっていうな!」

 偽リトゥエもこちらを指差して癇癪を起こしているようだ。何故だろう。

「あら珍しい。感情が感染するなんて、余所では見たことない症例ね。うまく制御できればクラウド……ロールに使える。もっと研究しないと」

 彼女の言葉には時々聞き取れない単語が混ざる。言葉というよりノイズと言った方が近い。

「一度、解剖されてみない? 報酬は弾むけど」

「解剖に一度とか二度とかあるかっ!!」

 ついに怒りが爆発した。と同時に、偽リトゥエが両手を振り上げて襲い掛かってきた。

 ど、どうすれば……






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試作零号


 偽リトゥエはある程度痛めつけると光の粒となって消滅してしまった。

「まだ空間固定……の揺らぎが大きくて発散してしまうことがあるようね。もうちょっと研究……」

「研究はお仕舞い!」

 リトゥエはいつの間にか周りにあるものを手当たり次第に破壊していた。もう既に様々なものが凹んだり、割れたりしている。戦闘が始まった時からやっていたようだ。

「なんてこ…! ……を、…に……い……!!」

 酷い金属ノイズに思わず耳を塞ぐ。

「うわ、何これ」

「……!………!……」

 頭がくらくらしてきた。耳にはもうノイズしか入ってこない。

 それも抑揚のある音からただのホワイトノイズへと変わり、続いて視界にもノイズが乗るようになってきた。

 もう自分が立っているのかどうかも分からない……



 気づくとそこは魔女の屋敷の前だった。何故こんなところで気を失っていたのか……

 どうも記憶が曖昧だ。たしか……井戸の奥の探索に行ったら、そこに魔女がいて……魔女に追い払われて井戸から出てきたところで……

 ……そうか、一足先に井戸から出てきていた盗賊に待ち伏せを食らったのか。しかし、何も盗まれてはいないようだ。


「まだいたの」

 魔女が井戸から出てきた。金属製の筒を一つ脇に抱えている。

「もう用はないから」

「調べろって自分で言ったくせに」

 リトゥエがまた癇癪を起こしそうだ。

 しかし、魔女はやけににこやかである。いつになく。その様子が気になったが、このままここにいても仕方がない。村に帰るとしよう。



「門の向こうはもっと面白いものがありそうね」

 魔女は金属製の筒を持って屋敷に入ると、扉を閉め、そして、鍵をかけた。

 月明かりに照らされた果樹園の屋敷は、静寂に包まれていた。

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